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「水野先生はお元気なんですか?」
「ああ。相変わらず元気だよ」
「そうですか。良かったです」
「ま、あの人が病気してる姿なんて想像出来ないけどね」
けらけらと笑う優一。
もし明子が聞いていたら、彼は地獄を見ることになっただろう。
「高橋君と桐生さんは?」
昇降口をくぐり、下駄箱へと向かう。
「稔は軽井沢に帰省中。操の生存は確認した」
その言葉を聞いた千歳は、履き替えた下足を持った手をぴたりと止めた。
「桐生さんには会ったんですか?」
「ん?まぁね。この前水野先生に呼び出された時は操と一緒だったから」
優一は上履きに自分の足をぐりぐりとねじ込んでいる。
「髪型をポニーテールにしてたな。一体何を血迷ったのかねぇ」
普段は下ろしている髪を括ってまとめている。
平生の上品さからは一変、すっかり快活で活動的になっているのだろう。
自分の目から見ても、彼女は美しい。どんな格好をしても様になる筈だ。
ポニーテールだって、恐ろしいまでに似合っていたに違いない。
それは優一の表情を見ただけで分かる。
「……そうですか」
何となく湧いてきたモヤモヤした気持ちを、千歳は下足と供に下駄箱に閉じ込めた。
「さ、錬研に行きましょうか」
校内には誰一人として居ない。
静まり返った空気の中を二人は歩く。
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