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「錬研錬研っと」
教室棟を通り抜け、実験棟の錬金学研究室に辿り着く。
「中に水野先生が居るんですよね?やけに静かな気がしますけど……」
「うん?」
確かに。
人の気配すらしない、といえば大げさかも知れないが、物音一つしない。
あの水野教諭が甲斐甲斐しく働くことはないだろうが、不自然といえば不自然だった。
「まぁ、入ってみれば分かるんじゃないですかね?」
あれこれ考えても明子の行動など読めるはずがない。
早々に思考を停止させた優一は扉に手を掛ける。
「っと」
ふと気が付いたように、優一は後ろの千歳に振り返った。
「立花さん」
そして、いつになく真剣な声と眼差しを千歳に向けた。
「はっ、はい!」
彼の緊張を読み取った千歳は、思わず上ずった声を上げてしまった。
「いいかい?俺たちはこれから惨劇が繰り広げられた部屋に飛び込むわけだけど、何を見ても決して驚かないでくれよ?」
「惨劇……?」
千歳にはいまいち意味が理解出来ない。
「あぁ。それはもう凄惨だよ。覚悟しといた方がいい」
言って、優一はごくりと唾を飲み込んだ。
「ひっ……!」
千歳は戦慄した。
一体なにが凄惨で惨劇なのかよく分からないが、優一の様子からすると尋常ではないらしい。
毒草を煎じて劇薬でも作っているのか。
あるいは錬金術で得体の知れない生物でも生成しているのか。
それとも、森本教諭を使って人体実験でもしているのか。
様々な憶測が千歳の頭に交錯する。
「だ、大丈夫なんですか?」
「多分ね。それじゃ、行くぞ!」
千歳の問いに弱々しく答えた優一は、勢い良く扉を開け放った。
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