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「……」
「どうだい?すごいだろう?」
「は、はぁ……」
いたるところに放り出された本の数々。
申し訳程度に作られた獣道のような通路。
かび臭く淀んだ空気。
確かにすごい光景だった。
しかし。
(散らかってるのはいつものことなんじゃ……)
千歳は前に訪れた時の光景を思い出していた。
あの時の散らかり具合に少し香辛料を加えれば、今のこのような光景になるのではないか。
優一が脅しをかけるものだから、果たしてどんなことになっているのだろうと身構えていたが、かえって拍子抜けしてしまった。
「水野せんせー。来ましたよー」
その下手な脅しをかけた張本人は、散らかった本をものともせず奥に進んでいく。
千歳も慌ててそれに続いた。
「って、あれ?居ない?」
窓際の、いつも明子が座っている机(ここだけは綺麗に整理整頓されている)には誰も居なかった。
「おかしいですね。トイレにでも行ってるのでしょうか?」
千歳が部屋の中を見回すが、無論誰も居ない。
「うーん。先生も人の子ってことかね?」
優一は明子の椅子を引っ張ってくると、そこに腰を下ろした。
「ま、帰ってくるまで待つとしますか。多分そんなに時間は――」
「塚越ぃ~……」
不意に、弱々しい声が聞こえた。
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