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「サンキューサンキュー。助かったよ」
優一と千歳の手によって助けられた明子は、白衣の裾を手で払った。
「いやまったく。本のくせに突然崩れてくるたぁ、なかなかいい度胸をしている」
「そりゃこんだけほっぽりだされていれば反逆もしたくなりますって」
優一は半ば呆れ気味に周囲を見回した。
前回来た時にかなり片付けた筈なのだが、今回はそれ以上の量があると見える。
「すごい数の本ですね。どうしたんですか?これ」
千歳が手近にあった本を拾い上げて訊く。
「授業の足しになるかと思ったが、結局ごみにしかならなかったんだよ」
明子は足元の本を蹴飛ばした。
「欲しいのがあったら持ってっていいぞ」
「わぁ。本当ですか?」
千歳は幼い少女のように顔を輝かせる。
「あぁ」
千歳の表情を視認した明子は、口の端を釣り上げて悪魔のような微笑みを浮かべた。
「ただし、これを全部片付けた後でな」
「え……?」
一瞬固まった千歳。
続いて部屋の中をぐるりと見渡して叫んだ。
「これを全部ですかぁ!?」
「そうとも。何のためにお前を呼んだと思ってるんだ?」
明子は喉の奥で笑いながらすっぱりと言い切った。
「そ、そんなぁ……」
「諦めな。ここまで来たら、もうやるしかない」
憔悴しきった千歳の肩を、優一は同情するように叩いた。
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