90796人が本棚に入れています
本棚に追加
「ううう……。なんで貴重な夏休みにこんなことを……」
若干の涙声で千歳は本棚から本を取り出し、床に積み重ねていく。
「先生貢献先生貢献。二学期は練金学の成績が上がるかも知れないぞ?」
明子は千歳の横で積まれた本をビニール紐で縛り上げている。
分厚い本から薄い本、文庫サイズのものや図鑑サイズのものまで、全てをいっしょくたに見境無くまとめている。
「またまたぁ。どうせそんなことやる気ないくせに」
優一がその本を練金学研究室の外まで持っていく。
まるでバケツリレーのような連携で本が整理されている。しかし量が多いので、本人たちは減り具合を理解していなかった。
「ところで先生、そろそろ交代しませんか?」
再び戻ってきた優一は、明子が縛り上げた本の上に腰かけた。
「ん?何をだ?」
明子は手を止めず優一に訊く。
「だから、本を縛るのと運ぶのをですよ」
明子のまとめる量は凄まじい。さらにその見境の無さからバランスも最悪だった。
図鑑と図鑑の間から文庫本が零れ落ちたり、積み重ねた一番下に文庫本があったりと、運ぶ方には少々辛いものがあった。
「立花さんには作業を続けてもらうとして、俺たちは交代交代でやりましょうよ」
「おいおい。馬鹿を言うんじゃない」
優一の言葉を聞いて、明子の手がぴたりと止まった。
「か弱い女性にそんな埃にまみれた本を運べって言うのか?」
「か弱い女性?先生、寝言は起きてる時に言うもんじゃ――」
その時、優一の顔の横を何かが通過し、続いて背後の壁で轟音がとどろいた。
「……なんですか?」
見ると壁ぎわで国語辞典サイズの本が、バラバラに砕け散っていた。
「……」
窓から生暖かい風が吹き込む。
崩壊した本のページが風に舞った。
「時に塚越」
嫌な声がした。
首を無理矢理戻すと、明子が分厚い本を弄んでいた。
「口は災いの元という言葉を知ってるか?」
「……本、ゴミ捨て場に運んできまーす」
命の危険を感じた優一は、早々の退場を決意した。
最初のコメントを投稿しよう!