平凡な日常

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「相変わらずですね。塚越君は」 二人のやり取りを見ていた千歳は本を手に取りながら笑った。 「去年もあんな感じだったんですか?」 「ん?まぁな」 問われた明子は肩をすくめて言った。 「真面目だが優等生とは違うって感じだったな。いつも飄々としていて、減らず口もそのままだ。しかしまぁ……」 明子は腕を組んで軽くため息をついた。 「放っておけないんだよなぁ。母性本能が刺激されるって言うかさ。いつもの私なら、こんな献身的にまで補習やらをつけてやることはないんだが」 その目は、息子の成長を見守る母親のような、とても穏やかなものだった。 「人間的な魅力というものですかね?何となく、分かる気がします」 千歳は素直にそう言った。 優一には人を引き寄せる何かがある。自分も、操も、稔も、その何かに引き寄せられたのかも知れない。 「……」 そう考えると無性に恥ずかしくなってきた。 「ほぅ」 その反応を、悪魔は見逃さない。 「つまりお前は、塚越のそんなところに惚れたわけだ?」 「なっ……!」 千歳の顔が急沸騰した。 「何を言ってるんですか!私は別に、そんなこと……」 この状況でそんなことを言っても説得力はパン屑ほどもない。それが分かっているだけに、千歳の声は尻すぼみになってしまった。 「皆まで言うな。若いねぇ。青春だねぇ。輝いてるねぇ」 悪魔はまだ逃がすつもりはないらしい。 まるで年寄りのようなことを言いながらも、その顔は意地悪な猫のように笑っている。 「だ、だからそんなことは!」 「まぁいいや。私はちょっと席を外すから、恥ずかしさを一人で噛み締めているがよいぞ」 そう言って、悪魔は高笑いを上げながら部屋を出ていった。 「~!」 散々辱めを受けた上での放置。 千歳はこのやりきれない思いを何処にぶつけていいのか分からなかった。
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