平凡な日常

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ごみ捨て場は実験棟を出たすぐ先にある。 本来なら学期中に生徒らが清掃のごみ処理に使う場所のため、長期休暇中は何もない場所である。 しかし今年は、本の山が高く聳えていた。 「これ、俺が全部運んだんだよな」 前回から代わり映えのない山を見上げ、優一は苦笑いを浮かべた。 休み中であるから回収業者などは来る筈もなく、恐らく休み明けまでこの光景が変わることは無いだろう。 「出来れば今日で終わりにしてほしいなっと!」 手に提げた本の束を、勢いをつけて投げ飛ばす。 山が少しだけ高くなった。 「ふぅ。あっついな畜生」 今日何度目かも分からない愚痴を呟きながら、優一は額の汗を拭った。 太陽は相も変わらず出力全開。誕生から数十億有余年の齢を重ねてもなお、止まることを知らない。 「老害も甚だしいんじゃないのか?」 底知れぬパワーに苦言を呈し、優一は実験棟に向かって歩き出す。 「ん?」 ふと、視界の隅にバラけた本の束が入った。 「あーあ。誰かやらかしたな。こりゃ」 近付いてみると、ビニール紐が引きちぎるように切られていた。誰かが欲しい本を持っていったのだろう。 それだけでは飽き足らなかったのか、本が至る所に散らばっていた。 「やれやれ。持ってくのは勝手だけど、もうちょっと穏便に出来ないもんかね?」 このまま放っておくわけにもいかないので、優一は片付けを始めた。 「ふぅん。世界魔法史か」 手近にあった本の表紙にそう書いてあった。 魔法史とは魔法の歴史のことである。日本では日本魔法史と世界魔法史の二つを学ぶことが出来るが、どうやらこの本は後者にあたるようだ。 事典のように分厚い本で、なかなか年季が入っている。 「ふむ……」 開いてみると、魔法の起源やその広がり、魔法学の成立の歴史などが事細かに書かれていた。 「無」に関することにも触れられている。 「『発見当初から迫害の対象にあった』か。やっぱりいつの時代でも、特異体質ってのは虐げられていたんだねぇ」 「勉強熱心なのはいいことだが、今は掃除の時間だぞ?」 後ろから声を掛けられた。 見るとそこには見知った白衣の女性が立っていた。 「なんだ水野先生か。ご機嫌麗しゅう」 特に悪怯れる様子もなく、優一は静かに本を閉じた。
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