平凡な日常

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「まったく。ちゃんと仕事してるか見にきてみたら、何をやってるんだお前は?」 明子が砂利道を音を立てて近付いてくる。 「さっさと帰ろうと思ったんですけど、こんな有様だったんですよ」 優一は散乱した本たちを明子に見せる。 「欲しい本があったもんだから、誰かがやっていったんでしょうね」 「うーん……。要らない本だから持ってく分には一向に構わないが、せめて片付けぐらいはしていってほしいもんだ」 そう言って、明子は足元にあった本を蹴飛ばした。 「ま、ここの片付けは後回しだ。立花の奴を待たせてるから、さっさと戻るぞ」 「……」 返事がない。 優一は手に持った本の表紙を見つめ、何か考え事をしているようだった。 「どした?似合わない顔をしてるな」 「余計なお世話ですよ。っと」 優一は本をごみ捨て場に投げ入れた。 「どうして俺たちが魔法を使えるのかって考えていただけです」 「ほぅ……」 何やら面白そうな顔をして、明子は自分の顎に手を添えた。 「だって、俺たち日本人が魔法を使い始めたのは明治時代からでしょ?それまで使えなかった人間が、西洋文化の流入と共に使えるようになったって、何か不思議じゃないですか?」 「……そうだな。しかし、一般に浸透したのが開国以降で、それ以前にも使っていた人間は居たそうだぞ」 「え?そうなんですか?」 口では驚いているが、表情は好奇心に満ち溢れている優一。 「正確な資料が無いから仮説の域は脱しないけどな。詳しいことは大学で習ってもらうとして、今回はさわりだけ教えてやろう」 明子はいつの間にか勉強を教える教師の顔になっていた。
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