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「例えば日本では昔から『占い』ってやつが大きな力を持ってるよな?その占いが魔法の一種という説もある」
かつて邪馬台国を治めていた女王、卑弥呼。
彼女は鹿の肩甲骨を焼き、それで生じた割れ目の形で吉凶を占う太占(ふとまに)などを用いて国を統治していたという。
「そんでもって、二度の元侵攻の時に吹いた『神風』。あれも風術師が起こしたって言われてるんだ」
「確かに、二回もタイミングよく嵐が巻き起こるなんて都合がいいですね。魔法って考えるのが妥当かも知れませんね」
優一はこめかみを指でつつきながら、明子の話を頭に入れているようだった。
元は海上での戦いが苦手である。そう読んだ日本の軍勢は小舟を漕ぎだし、海上戦、及び船上戦に持ち込んだといわれている。
その軍勢の中に、強力な風使いが居ても何らおかしくはない。
「豊臣秀吉はキリスト教を厳しく取り締まったよな?あれの裏には、魔法の布教を阻止するという目的があったらしい。南蛮人が不可思議な現象を起こすってことが、秀吉の耳にも入ったんだろうな」
明子の話を聞きながら、優一はうんうんと頷いている。
「確かに筋の通る話ですね。……でもそうなると、元から魔法が使えた日本人はどうなったんですか?」
「徹底的に弾圧されたとも、陰陽道やなんかに逃れたとも言われているが、詳しいことは分からん。私は魔法史専攻じゃないんでね。詳しいことは自分で調べてくれ」
そこで言葉を切り、明子は肩をすくませた。
「そもそもエーテルってのは人間の体を支える重要なエネルギー。日本人が昔から魔法を使えても、別におかしいことじゃないんだがな」
「日本人も、誕生からエーテルを持ち合わせてたってことですか」
古の時代に想いを馳せる。
そんな目をして、優一は遠い空を見つめていた。
「きっとその中にも、俺みたいな奴が居たんでしょうね」
「……そうだな。『無』を持つ者は少ない。突然変異みたいなものだからな。だが、いつの時代でも、どんな国にでも、少ないながらも居たことは確かだろう」
辺りが少し暗くなる。
夏の太陽が雲に隠れたようだ。
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