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駅前は人でごった返していた。
ちょうど帰宅時ということもあるが、スーツ姿のサラリーマンよりも浴衣姿の人々の方が目立っていた。
(一堂に会するってのは、こういうのを言うんだろうな)
そんな中、優一は普段着で腕時計を見ていた。
「六時五十分」
少々早く着きすぎたか。
他のメンバーが来る様子はまだない。
「ま、仕方ないか」
優一は暫し待つことにした。
「ほら。早く行こうぜ」
「待ってよ。下駄って歩きにくいんだから」
彼の脇を一組のカップルが通り過ぎた。二人とも浴衣姿で、彼氏が手を引き、彼女がそれについていく。
手を引く彼氏の顔は無邪気に笑い、引かれる彼女は子供をあやす母親のような笑顔だ。
一目で幸せそうだと分かる。
「……こんなに悔しいのはなぜだ?」
独り身の男の悲しみというものだろうか。
件のカップルを優一は恨めしげに見送った。
「ったく。いい加減に……お?」
「優一ぃ!」
ちょうど改札の方を見たところで、こちらに向かって手を振ってくる長身の男が目に留まった。
両脇にはよく見知った彼女らも居る。
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