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祭りというのは一種の催眠術のようなものだ。
熱気に満ち溢れる中に、屋台が軒を連ね、客を呼ぶ声がする。それに応えて客が商品を買う。それが波紋のように広がり、客が客を呼ぶ。高い安いは関係ない。
ある人は言う。
祭りは雰囲気を買うものである、と。
「うーん。宴はこうでなくっちゃ!」
イベント事になると張り切るのが稔という男である。
「な?お前もそう思うだろ?」
「触るな暑苦しい」
肩を掛けてきた稔を、優一は軽くいなした。
「ちょ、つれねぇなぁ」
「うっせ。野郎に絡み付かれて喜ぶ奴があるか」
優一はポロシャツの襟元をパタパタとさせる。
「んで、どこを回る?花火まではまだ時間があるぞ」
「おっとちょい待ち。俺に一つ案がある」
どこから取り出したのか、稔の手には四本の紙切れが握られていた。
「なぁに?それ?」
操が目を細めてそれを見つめる。
「くじ引きだ。このままだと俺が売れ残りになることは必至。というわけで、このくじを引いて二組に分かれようってこと。無論野郎二人になる可能性もあるわけだが」
「えっと……。つまりは四人で一緒に回らないってことですか?」
「そゆこと」
「そ、そんなぁ……」
千歳はひどく落胆した。
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