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――さて。
一世一代のくじ引きの結果である。
「あぅ……。外しました……」
「……なんかごめん」
当たりを引いたのはこの二人、稔と千歳である。
「いやまぁなんつーかさ、気を落とさないでくれよ」
「高橋君ひどいです……」
先程からの千歳の落胆ぶりは凄まじかった。はずれくじ無しのくじでハズレを引いてしまった。まさにそんな感じだ。
稔としてはこの場を盛り上げるためにやったことなのだが、良心の呵責に苛まれていた。
「桐生さん、きっと楽しいでしょうね」
千歳は操と優一らが消えた人混みを悲愴な眼差しで見ていた。まるで優一と悠久の別れをしてしまったような印象さえ受ける。
「もう!そんな顔しないでくれよ!」
稔は千歳の両腕を掴むと、勢いよく上下に振った。
「ほら、俺は優一の趣味趣向を色々と知ってるんだからさ。稔君の相談室、開設しますよ?」
「高橋君……」
千歳は顔を上げる。
そこにあるは、高台から眺める青空のような、爽やかな笑顔。
「俺がこんなこと言うのはアレなんだけど……楽しもうぜ?せっかくの夏休みなんだから」
その顔を見ていると、何となく許してしまえるような、むしろこちらが罪悪感を抱いてしまうような感覚に陥る。
彼は彼なりに考えているのだ。それを棒に振るようなことをしてはいけない。
「……そうですね。楽しまないといけませんよね」
「じゃあ行こうぜ!時間はまだたっぷりあるんだから!」
「はいっ!」
やっと千歳の顔が明るくなった。
(なんつーか)
笑顔の裏で稔は考える。
(俺ってけっこう損な役回りじゃねぇか?)
喧騒に疑問を投げ掛けても、何も答えてはくれない。
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