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「優一、早くしなよ!」
「待てって。祭りは逃げていかないよ」
大はしゃぎの操の後ろを、困った笑みを浮かべた優一がついていく。まるで仲の良い父子のような光景だ。
「まったく……」
無邪気というか何というか、お淑やかな風貌が台無しである。
「早く早く!」
さっきから何を買うでもなく、ただただ自分の前を行く操。一体何が楽しいのか。しかし自然と顔が綻んでしまう。
自分も何か楽しんでいるところがあるのだろう。
「だから待てって。少し休もう」
優一は近くにあったベンチにどっかりと腰を下ろした。
「なによなによ。年寄りみたいに」
少しむくれながらも素直に戻ってくる操。優一の隣にちょこんと座る。
「ふふふ」
そして足をパタパタとさせる。見るからにご機嫌である。
「お前どうした?すっかりご機嫌だな」
見てるこちらが恥ずかしくなるくらいの上機嫌である。優一はハンカチで汗を拭いながら訊いた。
「だって楽しいじゃない」
操は空を仰ぐ。
「お祭りって何かいいのよね。雰囲気とか、熱気とか、全部が楽しいって思えちゃう」
それに、と付け加えて、操は横目で優一を見た。
「今年はちょっと、特別かな?」
「なんだそりゃ。意味が分からん」
首を傾げる優一。
その反応を見た操はますます顔を輝かせ、勢いよく立ち上がった。
「分からなくたっていいわよ。早く行こ!」
「はいはい。お嬢様には逆らえませんね」
優一も重たい腰を上げる。
宴の夜は、まだまだ続く。
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