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「最近、何となく思うんです」
声色は哀切。
「塚越君の隣に居るのは、私じゃないのかなって」
まるで独白のような言葉。
「塚越君と桐生さんの間には……絆のようなものを感じるんです。私の入る余地がない、固い固いバリアのようなもの」
「な、何を言ってるんだよ……」
彼女の悲しみがそくそくとして胸に迫る。稔はどう声を掛けていいのか分からなかった。
「もちろんただの憶測に過ぎません」
ただ、と付け加え、堪え難い微笑みを稔に向けた。
「今日のくじ引きも、そういう力が働いたのかなぁ……なんて、思っちゃったりもします」
「……ごめん」
稔はただ謝る。
「ほんとに、ごめん」
自分が余計なことをしなければ、こんなことにはならなかった。
確かに二人きりにはなれない。しかし、離れ離れになることもなかった。
少しでも。少しでも一緒に居られる時間を作れたら、彼女はこんな苦楚を味あわなくてよかったのだ。
(それなのに、俺って奴は!)
稔は自責の念に駆られていた。
「いいえ。それは違いますよ」
千歳は稔の両腕をしっかりと握った。
「高橋君は何も悪くありません。私が塚越君に『一緒に行きませんか?』って、言えれば良かったんです。高橋君は気を遣ってくれたんですよね。私の方こそごめんなさい」
「立花さん……」
どうしてそんなことが言えるのか。
どうしてそんな表情が出来るのか。
どうして……。そんなに強いのか。
腕に伝わってくる彼女の温もりが、稔には痛かった。
「だから、今度は私だけの力でやってみようと思います。高橋君は塚越君のことを色々と知っている。御助力は、よろしくお願いしますね?」
稔の返事を待たず、千歳は腕を引っ張った。
「行きましょ!花火、始まっちゃいますよ!」
祭囃子が鳴り響く。
切ない想いを吹き飛ばすかのように、どこまでも賑やかに。
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