14/38
前へ
/396ページ
次へ
「最近、何となく思うんです」 声色は哀切。 「塚越君の隣に居るのは、私じゃないのかなって」 まるで独白のような言葉。 「塚越君と桐生さんの間には……絆のようなものを感じるんです。私の入る余地がない、固い固いバリアのようなもの」 「な、何を言ってるんだよ……」 彼女の悲しみがそくそくとして胸に迫る。稔はどう声を掛けていいのか分からなかった。 「もちろんただの憶測に過ぎません」 ただ、と付け加え、堪え難い微笑みを稔に向けた。 「今日のくじ引きも、そういう力が働いたのかなぁ……なんて、思っちゃったりもします」 「……ごめん」 稔はただ謝る。 「ほんとに、ごめん」 自分が余計なことをしなければ、こんなことにはならなかった。 確かに二人きりにはなれない。しかし、離れ離れになることもなかった。 少しでも。少しでも一緒に居られる時間を作れたら、彼女はこんな苦楚を味あわなくてよかったのだ。 (それなのに、俺って奴は!) 稔は自責の念に駆られていた。 「いいえ。それは違いますよ」 千歳は稔の両腕をしっかりと握った。 「高橋君は何も悪くありません。私が塚越君に『一緒に行きませんか?』って、言えれば良かったんです。高橋君は気を遣ってくれたんですよね。私の方こそごめんなさい」 「立花さん……」 どうしてそんなことが言えるのか。 どうしてそんな表情が出来るのか。 どうして……。そんなに強いのか。 腕に伝わってくる彼女の温もりが、稔には痛かった。 「だから、今度は私だけの力でやってみようと思います。高橋君は塚越君のことを色々と知っている。御助力は、よろしくお願いしますね?」 稔の返事を待たず、千歳は腕を引っ張った。 「行きましょ!花火、始まっちゃいますよ!」 祭囃子が鳴り響く。 切ない想いを吹き飛ばすかのように、どこまでも賑やかに。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90797人が本棚に入れています
本棚に追加