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「げっ!もうこんな時間じゃないか」 腕時計で時間を確認した優一は、すぐさま前方の操に声を掛けた。 「操!そろそろ行かないと花火が始まる!」 「えー?」 振り返る操はあからさまな抵抗の声を上げた。 「もう少し屋台を回りたいんだけど」 「おいおい。まだ食う気かよ」 たこ焼き、焼そば、綿飴、りんご飴。 操が平らげた品目を上げたらキリがない。しかもその全てを優一に奢らせている。 (そろそろ氷河期が到来しそうだ……) お陰で優一の財布の中では、数か月繰り上げて冬将軍が猛威を奮っていた。 「まぁ、仕方ないか。お祭りのメインは花火だものね」 その冬将軍をけしかけた張本人は顎に人差し指を当て、渋々ながらも納得したようだ。 「よし。とりあえず河川敷に降りる。稔たちが居たら合流しよう」 河川敷に降りる階段はここより少し歩いたところにある。しかし、この人混みの中では身動きが取りづらい。歩くスピードも自然と遅くなってしまう。 「ちょ、ちょっと!置いてかないでよ!」 加えて今回は同伴者も居る。この人混みの中ではぐれてしまったら、探すのは一苦労だ。しかし、合わせていてはこの中で花火を眺めることになる。それだけは何としても避けたかった。 とすれば、取るべき行動は一つ。 「ちょっと失礼」 優一は操の手を握った。 「あっ……」 「少しだけ、早く歩く。ちょっと辛抱してくれな」 惚けたような操の声を背中で聞きながら、優一は人混みを掻き分ける。
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