90797人が本棚に入れています
本棚に追加
「げっ!もうこんな時間じゃないか」
腕時計で時間を確認した優一は、すぐさま前方の操に声を掛けた。
「操!そろそろ行かないと花火が始まる!」
「えー?」
振り返る操はあからさまな抵抗の声を上げた。
「もう少し屋台を回りたいんだけど」
「おいおい。まだ食う気かよ」
たこ焼き、焼そば、綿飴、りんご飴。
操が平らげた品目を上げたらキリがない。しかもその全てを優一に奢らせている。
(そろそろ氷河期が到来しそうだ……)
お陰で優一の財布の中では、数か月繰り上げて冬将軍が猛威を奮っていた。
「まぁ、仕方ないか。お祭りのメインは花火だものね」
その冬将軍をけしかけた張本人は顎に人差し指を当て、渋々ながらも納得したようだ。
「よし。とりあえず河川敷に降りる。稔たちが居たら合流しよう」
河川敷に降りる階段はここより少し歩いたところにある。しかし、この人混みの中では身動きが取りづらい。歩くスピードも自然と遅くなってしまう。
「ちょ、ちょっと!置いてかないでよ!」
加えて今回は同伴者も居る。この人混みの中ではぐれてしまったら、探すのは一苦労だ。しかし、合わせていてはこの中で花火を眺めることになる。それだけは何としても避けたかった。
とすれば、取るべき行動は一つ。
「ちょっと失礼」
優一は操の手を握った。
「あっ……」
「少しだけ、早く歩く。ちょっと辛抱してくれな」
惚けたような操の声を背中で聞きながら、優一は人混みを掻き分ける。
最初のコメントを投稿しよう!