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(……)
自分は今、どんな顔をしているのだろう。
鏡があったら見てみたい。
多分、真っ赤になっているだろう。
ただ手を握られただけで速くなる鼓動、荒くなる息遣い。顔にも血が上っている。
でも、嬉しい。
(優一の背中って大きいんだな)
人混みを掻き分ける背中。
彼は早く歩くと言っていたけれど、それ程速度は変わっていない。
考えてみれば、彼はスニーカーで、自分は草履。歩く速度に差が出るのは当然。彼は自分に合わせてくれているのだ。
その優しさが、たまらなく嬉しい。
(でも)
彼は誰にでも優しい。
クラス委員長が大量のプリントを抱えてくれば持つのを手伝い、新入生が教室が分からなくて困っていたら目的地まで連れていき、消し忘れの黒板は誰に言われるでもなく消す。
彼はそういう人間だ。
千歳がノームにさらわれた時だってそう。
(……)
彼の優しさを独り占めにしたいと思ったのは、いつの頃からだろう。
グラウンドで伸され、シルフを一緒に倒し、怒られたり、テスト勉強をしたり。
知らず知らずのうちに思っていた。
知らず知らずのうちに、魅了されていた。
(だから……)
もっと一緒に居たい。
もっと優しくされたい。
誰にも、取られたくない。
(……)
握る手に少しだけ、力を加えた。
「ん?ちょっとスピード落とそうか?」
「ううん。大丈夫」
祭囃子が鳴り響く。
決意の想いを音色に乗せて、どこまでも賑やかに。
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