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河川敷は人でごったがえしていた。 ある者はかき氷を片手に、またある者はうちわで扇ぎ、花火が始まるのを今や遅しと待っている。 「さて、稔たちは何処へ?」 優一が背伸びをして探すが、やはり見つかるものではない。 「くっそー。やっぱり見つからないか」 どこを見ても人だらけ。 みんな同じような顔に見える錯覚にさえ陥る。 「すこし高台に行ったほうがいいんじゃない?その方が見付けやすそうだし」 操が防波堤の土手を指差す。 「そうだな。ちょっと移動するか」 優一は指差された方に向かってさっさと歩きだしてしまう。 「ちょ、ちょっと待ってよ!」 操も慌ててそれに続く。 (もう手はつないでくれないんだ) 空気が読めてないというか何というか。人混みであることには変わりないのに。 足でも踏まれたらどうするのか。 (……って!一体何を期待しているの!?) 今更になってようやく気付く。まるで熱に浮かされたようなフワフワした気持ち。 気付くと同時に引き戻される。さらにこの場から逃げ出したくなった。 「お前は忙しい奴だな」 一人悶絶している操を見て、優一は目を細めた。 「う、うるさいわね!前向いて歩きなさいよ!!」 操は優一の背中に思いっきり平手を放った。 「痛!おとなしくしてりゃあ可愛げがあるのに……」 「おーい!優一ー!桐生さーん!!」 土手に登る手前、二人を呼ぶ声がした。 「ん?」 「こっちこっちー!」 見ると、右手上の方に手を振っている黒甚兵衛の男。その隣には紅の浴衣に身を包んだ女の子が座っている。 「考えることは一緒ってわけか」 「そうね」 優一と操は互いの顔を見て笑い合い、土手に陣取っている二人の元へ向かった。
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