19/38
前へ
/396ページ
次へ
「よーう。少し遅い帰還で」 優一たちが向かうと、稔は軽やかに手を上げた。 「なんも無いから尻が汚れるかも知れないけど、まぁ座ってくれ。ここから見たほうが眺めもいいだろう」 そして優一たちを促し、自分も座った。 「サンキュ」 「ありがとう」 稔の隣に優一が、その隣に操が座る。 「お二人とも、楽しんできましたか?」 稔の向こう側から千歳が訊く。 「それがさぁ。聞いてくれよ、立花さん」 己が身に起きた惨劇を語るがのごとく優一は言った。 「操の奴、ひどいんだよ。買うもの買うものみーんな俺に奢らせるんだから。おかげで俺の財布は早くも寒くなっちまったい」 と言って、ポケットから財布を取り出し、逆さにして振る。札も小銭も出てこなかった。 「女に奢るのが男の甲斐性ってものでしょ?我慢なさいよ。それくらい」 まぁ、あなたはそんな経験出来ないでしょうけど。 操は優越感に満ちた目で千歳を見た。 歯軋りして悔しがるか、あからさまに顔をしかめるか。 そういう反応が返ってくると思っていた。 「そうですか。楽しそうで何よりです」 しかし千歳はにこやかに笑った。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90797人が本棚に入れています
本棚に追加