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「よーう。少し遅い帰還で」
優一たちが向かうと、稔は軽やかに手を上げた。
「なんも無いから尻が汚れるかも知れないけど、まぁ座ってくれ。ここから見たほうが眺めもいいだろう」
そして優一たちを促し、自分も座った。
「サンキュ」
「ありがとう」
稔の隣に優一が、その隣に操が座る。
「お二人とも、楽しんできましたか?」
稔の向こう側から千歳が訊く。
「それがさぁ。聞いてくれよ、立花さん」
己が身に起きた惨劇を語るがのごとく優一は言った。
「操の奴、ひどいんだよ。買うもの買うものみーんな俺に奢らせるんだから。おかげで俺の財布は早くも寒くなっちまったい」
と言って、ポケットから財布を取り出し、逆さにして振る。札も小銭も出てこなかった。
「女に奢るのが男の甲斐性ってものでしょ?我慢なさいよ。それくらい」
まぁ、あなたはそんな経験出来ないでしょうけど。
操は優越感に満ちた目で千歳を見た。
歯軋りして悔しがるか、あからさまに顔をしかめるか。
そういう反応が返ってくると思っていた。
「そうですか。楽しそうで何よりです」
しかし千歳はにこやかに笑った。
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