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「なんだと!?」 驚く稔に言い聞かせるように優一は続ける。 「みんなの攻撃が吸収されるのを見た。間違いない。だから二人を連れて逃げてくれ。ついでに救急車と警察にも連絡頼む」 そして、一拍空けて、 「あいつは、俺が引き受ける」 「な、なに言ってるのよ!!」 操が優一の腕を引く。 「相手は凶器を持ってるのよ!?あんたも一緒に逃げるのよ!!」 「そうですよ!あまりに危険すぎます!!」 千歳ももう片方の腕を引く。 「いや、ダメだ。放っておいたらまた被害者が出る。それに俺も『無』だ。負けないさ」 それでも優一は、男を見据えたまま、頑として動かない。 (……くそ!) 『無』が相手では敵わないことは自明。魔法を防がれては太刀打ち出来ない。一緒に居ては足手纏いになるだけ。 (畜生!!) それに、優一は口には出さないが、言っている。 俺が駄目だったら二人のことを頼む、と。背中で言っているのだ。 男はもう目前まで迫っている。 自分の取るべき行動は、一つしかない。 (馬鹿野郎がっ!!) 稔は操と千歳の腕を掴んだ。 「何するの!」 「高橋君!?」 そして、驚く二人を無視して走りだす。 「待ってよ!優一を見捨てるの!?」 「放して下さい!高橋君!!」 抵抗する二人を稔は許さない。無言で強引に引っ張っていく。 (馬鹿が!馬鹿野郎がっ!!) 涙で滲む視界。 それでも稔は走る。 次第に離れていく、優一との距離。 「優一!!」 「塚越君!!」 操と千歳が伸ばした手は、ただただ虚空を掴むばかり。 優一に届くことはなかった。
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