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「てめぇは魔法を使わないのか?」 血濡れの男は不敵に宣う。 手に持つは、鋭利な振出しナイフ。これを使って数多の人間を傷つけてきた。 「お前、『無』だな?」 優一は男を睨み付けたままに言う。 踏みしめる足と、固く握り締めた拳。ここから通さないという構えだ。 「ほほう。よく分かったじゃねぇか」 男はナイフを弄びながら愉快そうに言う。 「で、どうすんだ?お仲間を逃がしたところで、魔法は俺に効かないぞ?」 「……俺も『無』だ」 優一の言葉に、男は手を止めた。 「なんだと?」 そしてナイフを優一に向かって突き付ける。 「てめぇ、俺を騙そうったってそうはいかねぇぞ」 「本当だよ。お前も『無』なら、俺にエーテルが無いことぐらい分かるだろう?」 「……」 品定めをするように、優一を見つめる。 頭のてっぺんから足の先に至るまで。 「ほう……。まさかこんな所で同族に会えるとはな」 男はナイフを引っ込める。 そして親しい友人に話し掛けるような口調で優一に言った。 「どきな。俺は同族を手にかける気はねぇ」 「……お前、なんでこんなことをする?」 その言葉を無視して、優一はぶつけた。 「沢山の人を無闇に傷つけてどうする?なんでこんなことをする」 「なんで?決まってるだろ。そんなこと」 憎悪のこもった口調で、男は断言した。 「復讐だよ」 血の滴るナイフは月光に照らされ、まがまがしく輝く。
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