29/38
前へ
/396ページ
次へ
男の気持ちは、痛いほど分かる。実際自分だって辛い目にあってきた。なんでこんな能力を持っているんだと憎んだこともあった。 人と変わってることが、こんなに大変だとは思わなかった。 しかし、だからといって人を傷つけていい理由にはならない。傷つけたところで、何も変わらない。 『誰も彼もがお前と同じ考え方を出来るわけじゃない』 明子の言葉が頭をよぎる。 彼女はこういうことを言いたかったのだろうか。 「さぁどけ!お前の分まで、俺が仇を取ってやるよ!」 仇。 そんなもの、取ってもらわなくていい。 もし昔の連中が馬鹿にしてきても、ぶっ飛ばせるだけの力が自分にはある。 この男は、憎しみを昇華する方向を間違えた。 正しい方向に導ける自分が居たら。 彼がそういう考え方の出来る人間だったら。 周りの人間がもっと優しかったら。 彼がもっと強い人間だったら。 『無』というものが無かったら。 彼の人生は、変わっていたに違いない。 「……自首しろ。そうすれば、多少なり罪は軽くなる」 「馬鹿言え。なんでそんなことしなきゃならないんだ」 どうやら良心というものは微塵も残っていないらしい。 「……そうか」 だったら、取るべき行動は一つ。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90797人が本棚に入れています
本棚に追加