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新学期が始まった。 残暑厳しい秋空の下、生徒達は学校へと急ぐ。 久しぶり、休みはどうだった、また海に行こうね。 そんな会話があちらこちらから聞こえてくる。各々夏休みを楽しんでいたようだ。 「はぁー……」 そんな中で、優一は重いため息をついた。 いつも登っている坂道が今日はより一層急に感じる。 ため息だけでなく足取りも重い。まるで土のうでも括り付けられているようだ。 「なにため息ついてるのよ」 隣で操が言う。 登り口でばったり出会い、そのまま一緒に登校している次第だ。 「なにって分かるだろう?それくらいのこと」 優一の左手にはまだ包帯が巻かれている。ナイフで切り付けられ、さらに傷口を広げられたのだ。加えて優一には魔法医療が効かない。治りが遅いのも当然である。 事情を知っている神武大学付属病院に行けば良いのだが、通院するには遠かった。 しかし、優一が憂いているのは怪我のことではない。 「俺が『無』だってことは、多分周知のことだろう。クラスの連中にどんな反応されるかね」 一学期の初っ端、ギャラリーが多数居る中で操と派手な喧嘩をした。その一件で優一は『無』を発動させている。 最近では偏見や差別的な報道も多い。 それを見てクラスメートは何を思うのか。
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