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「あんた、クラスのみんなを信用してないの?」
仮にも明神学園の生徒。
桐生家が代々治めてきた、魔法のエリートが集まる学校の学生である。粗相を犯す人間など居るのもか。
一学期の一件の後だって、みんな普通に接している。
操は少なからぬ怒りを覚えた。
「……そうは言うけどな」
優一は疲れ切った表情で操を見る。
「人間の感情ってのは、ひょんなことから変化してしまうもんなんだよ。それは仕方のないことさ」
実際、病院では看護師連中が何か恐ろしいものを見るような目で、自分を見ている。
担当医は良い人物だが、その後ろで看護師たちはヒソヒソと何かを喋っている。
その事実があるだけに、優一は憂いているのだ。
「それに、お前だってそうだろ?」
「えっ?私?」
一体何を問われているのか。操には分からない。
「最初は俺のことを嫌ってたのに、今では一緒に行動することが多い。なんでだ?」
「そ、それは――!」
確かに『感情の変化』である。
しかし、それとこれとは話が別。なぜと訊かれても答えられない。
だから操は、顔を真っ赤にして俯くしかなかった。
「ほらな。人間の感情ってのはけっこうあやふやなんだよ」
鞄を担ぎなおして、優一は空を仰ぐ。
「でも、お前とか、立花さんとか、稔とか、前と変わらず付き合ってくれる奴が居るのも事実。完全アウェイじゃないってことだ。少なくも不登校に陥ることはない。ありがとな」
空はどこまでも鈍色に曇っている。
新学期初日には、些か似合わない天気である。
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