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「おはよう」
教室に入ると一瞬にして空気が変わった。
談笑している者たちはそれを止め、読書をしている者は本を閉じる。そして、皆一様に教室の入り口を見る。
視線の先には、優一と操。というより、優一だけに注がれていた。
「ふぅ」
優一はやっぱりなとでも言いたげに息を吐き、自分の席に向かう。
しかし操は、その視線が優一に対して敵意を向けているようなものではない気がした。
(……?)
疑問を感じながら優一の後に続く。
「おはよう」
「おはよーさん」
「おはようございます」
既に席についている稔と千歳にも挨拶をし、優一は自分の席につく。消沈した表情のまま、鞄を机の横に掛けた。
「桐生さんもおはよーさん」
「おはようございます」
それとは対照的に、笑顔で挨拶をしてくる稔と千歳。
「お、おはよう……」
教室の雰囲気と同様に、とても穏やかな二人。
特に稔なら、教室の雰囲気が変わったのと同時に怒号を飛ばしていてもおかしくはない。
やはり、何かが違う。
「よぅ。塚越」
一人の男子が近づいてきた。
「お前、花火大会の事件で犯人ぶっ飛ばしたって?」
そして当然とも言える質問をする。
「まぁな」
分かってはいても、やはり触れてほしくはなかったのだろう。
優一は窓の外を見て、おざなりな返事をしている。
(優一……)
このクラスメートは優一を蔑むのが目的なのだろうか。『無』というものを、馬鹿にするのか。
優一のことを傷つけるようなことを言ったら、自分がこいつをぶっ飛ばす。
操はそう決心した。
「すっげぇじゃん!それって表彰もんだろ!」
しかしその男子は、興奮した様子で優一に賛美を送る。
「……は?」
雑言のひとつも飛んでくると思っていた優一は、予想外の反応に驚き、視線を窓の外から戻した。
「警察からメダルとか表彰状とか貰わなかったのかよ?」
「い、いや。特には……」
「あたし見てたよ!塚越君が犯人を殴ったとこ」
今度は女子が一人寄ってきた。
「ナイフを止めてこう、ドカーンて!すごいなぁ。私なんか恐くて体が動かなかったもん。左手、大丈夫?痛くなかった?」
こうしている間にもクラスメート達がぞろぞろと寄ってきて、様々な質問をしたり、誉め讃えたりしている。
最初は沈んでいた優一も、いつの間にかはにかんだような笑顔を浮かべ、皆の質問に答えていた。
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