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「みんなさっきから優一の話題で持ちきりでさ。登場するのを今や遅しと待っていたんだぜ?」
優一がもみくちゃにされている様子を見ながら稔は語る。
「俺も最初はどうなることかと心配していたんだが、まったくの杞憂だったぜ」
「そうですよ」
いつの間にか喧騒から抜け出していた千歳。
「むしろ桐生さんと塚越君の表情がすごく沈んでいたので、そっちの方が心配になっちゃいました」
そして、満面の笑みで、
「このクラスに、塚越君のことを悪く言う人は居ません」
「そーいうこと。みんな良い奴だ!」
そう言って稔は、優一を囲む賑やかな輪の中へ飛び込んだ。
「くぉらお前ら!優一様が困っているだろ!質問は一つずつだ!」
(杞憂……か)
二人の話を聞いた操の表情は、実に晴れやかなものになっていた。
やはり明神学園の生徒。多少変わったところがあったとしても、それをあげつらったり悪く言う人間は居ない。
それを誇らしく、嬉しく思う。
(でも……)
世の中には悪く言う人間が居るのも事実。またあのような事件が起こるかも知れない。
そんな時、自分は一体どうする。何が出来る。
優一にまたあんな表情をさせるのか。
(そんなのは、嫌)
鈍色の空から太陽が顔を出す。
その光を浴びながら、操はある決意を固めた。
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