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「そうだ」
明仁は立ち上がって窓辺に向かう。
「一応結界の範囲は学校の全敷地にまで広げておいたけど、それだっていつ破られるか分からない。……私も老いたかな。この程度の結界しか展開出来ないとは」
明仁は物悲しげな目で景色を眺める。
魔法の根源であるエーテルは、人間の体を支えるエネルギー。体が老いれば魔法も老いるは必定。抗うことの出来ない運命。
無論、そこは伝統ある桐生家の人間。凡人と比べれば魔法の老いるスピードは格段に遅い。しかし、最近老いを感じていることも事実。
明仁が自ら精霊退治に出向かないことには、こういった理由があるのかも知れない。
「とにかく様子を見てきてくれ。……すまないね。大した援助も出来なくて」
振り向く顔は、どこか哀愁に満ちていた。
「いえいえ。気にしないで下さいよ」
優一が立ち上がる。
「校長先生が気に病むことはないですよ。未来を担う俺たちにとってはいい経験です。その代わり」
と言って、優一は顔の前で手を合わせた。
「水野先生に錬金学実験の難易度をもう少し下げてもらえるよう、お願い出来ませんかね?あれがあると来年も二年生やるような気がするので」
恐れを知らないというか、何というか。
「分かった。善処しよう」
明仁はそんな飄々としたところを気に入っていた。
「よっしゃ!んじゃあさっさと片付けてきましょうかね。ほら、出た出た」
優一は他の三人をまくしたてるように手を振る。
「失礼します!」
「し、失礼します!」
「失礼しました」
「失礼しましたー」
様々な挨拶を残し、一行は慌ただしく校長室を出ていった。
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