青く透き通る悪魔

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「はぁー。やっぱりあの空間は苦手だぜ」 廊下を歩く四人。 稔が緊張を吐き出すようにため息をついた。 「水の精霊、か。わざわざ溜め池の中に逃げ込むなんて、一体どうなっているんだ?」 「そうよね」 操は難しそうな顔で腕を組んだ。 「敵対しているのならわざわざ逃げ込むなんてこと、しないわよね」 精霊ならば人間に臆する必要などない。意志こそ持っているが、その力は強大なのだから。 「罠……でしょうか?」 顎に指を添えながら千歳が言う。 先のノームとの一戦では、ノームが優一のことを――『無』のことをひどく嫌っているように感じられた。 『無』は魔法を吸収し、それを己がエーテルとする。 どんなに強い攻撃でも、ダメージを与えられなければ意味が無い。 精霊はそれを警戒している。とすれば、何か対策をしていてもおかしくはない。 「ま、行ってみりゃ分かるんじゃないか?様子を見てみないことには何とも言えない」 しかし、当の本人は何も気にしていないようだが。 「あっ、ねぇ優一」 ふと何か思い出したように操が訊く。 「手、もう治ったの?」 夏祭りの事件からはもうだいぶ時間が経っている。 凶悪殺人犯を捕まえる際、優一は大きな代償を払っていた。 「一応な。しかし、だ」 優一は左の手をみんなの前で開いてみせる。 「……傷跡、残っちゃったのね」 手のひらには、横に線が引かれていた。 「仕方ないさ。あれだけの怪我をしたんだから。指の一本も切断されなかっただけでも御の字だよ」 優一の行動を、蛮勇と捉えるか、勇敢と捉えるか。 結果的に重傷で済んだから良かったものの、一歩間違えば命を落としていた。 多くの人命が助かったものの、優一は癒えることのない傷跡を体に刻み付ける羽目になってしまった。 「……もう、あんな無茶は止めてよね?いざって時は私たちだって戦えるんだから」 胸に込み上げてくる切なさを押さえて操は言った。 「善処はしよう。しかし、保障はしない」 操の気持ちを知ってか知らずか。 優一はそう答えた。
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