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季節はもう深まる秋の中。
日没は早くなり、夜は長くなる。
そよぐ風には冷たさが増し、冬将軍の到来がもうすぐだということを知らせている。
「春来た時は緑が萌えていたのに、今は赤色が燃えるようだな」
紅葉を見上げた稔が呟く。
遊歩道には落ち葉が積もり、歩くたびに演奏会が開かれる。
見上げれば紅葉。裏山もすっかり秋色に染まっていた。
「芸術の秋、ですね。なんだか絵でも描きたい気分です」
落ちていていた紅葉を拾い上げる千歳。
足取りはまるでスキップをしているようだった。
「俺としては食欲の秋の方が嬉しいね。どっかにキノコでも生えて……おっ」
行く手にある大きな木。
その根元にキノコが生えていた。
「すげぇなこりゃ。スーパーで見かけるようなシメジやエノキとは段違いって感じだぜ」
それは真っ白で、背筋をぴんと伸ばしたような真直ぐな姿勢で生えていた。
どこか物悲しい秋の山には些か不釣り合いな、純白の天使とも言えよう。
「見た目的には食えそうだけど……」
「それ、ドクツルタケっていう猛毒のキノコですよ。食べたらまず命は無いと思ってください」
伸ばした稔の手がぴたりと止まる。
「……マジで?」
「えぇ。本当ですよ」
千歳は稔の隣にしゃがみこんだ。
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