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「医学の勉強の一環で毒キノコとか毒草のことを少しかじったのですが、毎年のように中毒者が出るって資料にありましたよ」
「ふぅん。こんなに綺麗なのに」
その可憐な肢体の裏に隠された猛毒。
稔は恐ろしいものを見るような目でドクツルタケを見た。
「美しい薔薇には朿がある。つまりそういうことです」
「ちょっとお二人さん。私たちはピクニックに来たわけじゃないのよ?」
木の根元にしゃがみこんで話している二人を見下ろし、操は呆れたような口調で言った。
「いいじゃないの。リラックスしてないと本番で力を発揮出来ないよ?」
「そうですよ?夜になると発光するツキヨタケとか、メルヘンチックな見た目が特徴的なベニテングダケとか、毒キノコも勉強すれば意外と面白いんですから」
しかし言われた二人はまったく反省していないらしい。
「まったくもう……」
横目で優一を見る。
「……」
優一は黙ったまま、じっと頂上の方を見つめていた。
「何か分かったの?」
操が質問すると、途端に優一は眉をひそませた。
「エーテルらしきものは感じる。でもなんつーか……靄が掛かってるみたいではっきりしない」
「どういうこと?」
『無』を持つ者は他人のエーテルというものを常人より鋭く察知することが出来る。
自分が魔法を使えない分、エーテルの流れや発現する機会を察知して避けるという、一種の防衛手段のようなものだ。
その力を以てすれば、強大なエーテルを持つ精霊は容易く認識出来るはず。
どうやら今の優一はそれが出来ていないらしい。
「まぁ、分からないもんは考えても仕方ないか」
そう言うと、優一は再び山道を登り始めた。
「……そうね」
一抹の不安はあるものの、優一に分からないことが自分に分かるはずがない。
操は優一の後に続くしかなかった。
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