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頂上にぽっかりと空いた空間。草木もそこには生えていない。地面が無かったという証拠。
かつて大穴が空いていたそこは、今では水を湛える大きな池となっている。
「なんか、空気が違うな」
道中では虫の鳴き声や小鳥のさえずりなどが聞こえていたが、ここは不気味に静まり返っている。
動物たちは人間以上に環境の変化に敏感である。何かを感じ取ってここを避けているのかも知れない。
「嫌な感じだ」
稔は思い切り顔をしかめた。
「水はどんな感じなのでしょう?」
千歳が池に近づく。
「ちょっと!不用意に近づくと危ないわよ!」
他の三人もそれに続く。
「冷たっ」
水に手を入れると、刺すような冷たさが千歳の手を襲った。
「この季節にしては少々冷たすぎますね。やはり精霊の仕業でしょうか」
水温を下げる。
それも水のエーテルの成せる技である。
これだけの水量の温度を操ることは並大抵のことではない。
水のエーテルを持つ者として、千歳は改めて精霊の力というものを思い知らされた。
「……本当に透き通っているのね」
その横で、操が恐る恐る池の中を覗き込む。
流れが全くないのに、底に手が届きそうな程に透き通っている。太陽の光に照らされて煌めく様は幻想的であるが、どこか寒気も感じさせる。
「よっと」
稔が転がっていた小石を投げ込んだ。
水面で音を立てたそれは、一直線に、まるで奈落の底に落ち行くように水底へと向かう。
その様子もはっきりと視認出来た。
「深いなこりゃ。落ちたらひとたまりもない」
「どう?優一。何か分かった?」
操に声を掛けられた優一は、何か納得出来ていない表情で首を傾げた。
「やっぱりぼんやりしてる。今回の精霊、それほど力がないんじゃ……」
突然、力の収束を感じた。
「ど、どうしたの?」
操の質問を無視して精神を集中させる。
霞が掛かっている中に、大きな力の気配。
それは真っすぐ、水面に向かってくる。
「みんな。一旦ほとりから離れよう」
言うなり優一は水面から目を離さないように、じりじりと後退りをする。
「な、なに?どうしたの?」
突然の変化に操たちは戸惑う。
「いいから俺の後ろに!早く!」
優一の様子は尋常ではない。それだけでも、何か良からぬことが起きる予兆ということは分かる。
皆は急いで優一の後ろについた。
「……来るぞ」
直後、水中から何かが飛び出した。
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