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『……へぇ。精霊を前にしても怖気付かないんだね』
ウンディーネは鉤爪を引っ込めた。
『私、暇を持て余していたの。あなた達となら楽しく遊べそうね。私の家に招待してあげる』
水面にあったウンディーネの足が、水中に沈み始める。
『ここは私が創った都。私の眷属たる清水と、極寒の冷たさ。きっと気に入るはずよ』
言葉とは裏腹の満面の笑みを残して、ウンディーネは溶けるように沈んだ。
「消えちまったか……」
稔が頭を掻く。
「どうするよ?」
「追うしかないだろ。相手はやる気だ」
優一は水中を覗き込んだまま言った。
「ここで俺たちが消えたら、奴は何をしでかすか分からない」
「でも、水中なんてウンディーネの独壇場みたいなものです。何か罠がある可能性も……」
「そうね。飛んで火に入る夏の虫ってこういうことを言うんじゃないかしら?」
千歳と操が口々に言う。
「火中の栗は火に手を突っ込まなきゃ拾えない。敵陣に突撃をかまして無双するのも悪くはないだろう?」
しかし優一は心配など微塵も感じられない口調で軽口を叩いた。
「俺に策があるから、ちょっと集まってくれ」
こうなっては手のつけようがない。
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