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「どういうことだ?分かるように説明してくれよ」
稔が苛立ちを隠せない様子で言った。ただでさえ敵の姿が見えなくて不安な状態なのだ。無理もない。
「落ち着け。今から説明するから」
優一は皆の方に振り返って口を開いた。
「ここに来る前、俺がエーテルらしきものは感じるがはっきりしないって言ってたの、覚えてるか?」
「ええ。確かに言っていたわね」
霞が掛かったようにもやもやとしている。
そんなことを言っていたのを操は聞いている。
「精霊ってのはエーテルの塊だ。そんなものを俺がはっきりと感じないことは明らかにおかしい。なぜだと思う?」
「ウンディーネが水中に隠れていたから……でしょうか?」
溜め池のほとりに居た時、ウンディーネは水中から飛び出してきた。何せこれだけ深い溜め池だ。姿を隠すのには丁度よい。
水中に居たがために気配が霞んでいたと千歳は読んでいた。
「半分正解かな。隠れていたわけじゃないんだ」
優一は空気の膜に触れた。
「姿を溶け込ませていたんだよ。この水の中に」
透明で脆そうに見えるが、操の作り出す風はそんなに柔じゃない。
「しょっぱい味噌汁にお湯を加えれば味が薄くなるだろう?それと同じことだ。ウンディーネはこの水に自分を溶かすことで気配を薄めていたんだ」
精霊とはエーテル。
エーテルにはそれぞれ属性がある。
ウンディーネは水の精霊。配下である水に自身を溶かし込むことぐらい、造作もない。
「薄いと感じるのはここの水量が多いからだろう。だが、ここの水はエーテルが満ちている。つまり――」
「……この水全部が、ウンディーネと同じ」
稔が優一の言葉を次いだ。
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