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戦いは一方的な展開だと言わざるを得なかった。
相手はただの魚ではない。ウンディーネが水をエーテルで操って作り出した魚である。故に、水で満たされたこの空間ではほぼ無制限に出現する。
「左右からの挟み撃ち!避けろ!」
「分かってる!堪えて!」
ダツによる挟撃。
神速で近づくそれは、空気のヴェールを容易く貫く。
「はぁっ!」
避けるとすれば上か下か。
操は猛然と水中深く潜る。
「ぐっ!」
「くうっ!」
それと同時に天井に押し上げられる体。まるでジェットコースターにでも乗っている気分だ。
ウンディーネに支配された水を操ることの出来ない千歳と、火のエーテルでは全く太刀打ち出来ない稔。戦闘に参加することの出来ない二人は、この苦痛にただただ耐えるしかなかった。
「まだ来てるわよっ!」
未だに追ってくるダツたちこのままでは追い付かれてしまう。
「しつこいんだよ!」
優一は大の字に手を伸ばす。押しつけられている天井で寝ているような体勢だ。
「喰らえっ!」
ドクンと心臓が脈打つような音がした。それと同時に、優一の背中から放たれる風。水中で花開いた風は波紋のように水を伝う。それは大きな衝撃となって追ってくるダツたちを粉砕した。
「うわっ!」
突如操が速度を落とした。天井に磔にされていた三人は瞬く間に落下した。
「操、もう少し穏やかに出来ないか?」
「無茶言わないで。こっちだって大変なんだから……」
操にも疲労の色が見え始めていた。
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