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見えない敵と戦う。これは全く想定していないことだった。敵なのは、今自分の身を取り囲んでいる水すべて。
それをどう駆逐するか。
(……蒸発させる)
あまりに無謀。
たしかにエーテルの量は十分であるが、この水を一撃で蒸発させるだけの量ではない。
それに、皆がいるこの状況では出来るはずがない。
「上!」
急速潜行してきたタチウオを粉砕する。
波動を受けた魚はバラバラに飛び散るが、死んだわけではない。元はただの水。散ったところで水に戻るだけなのだ。
加えてここの水はウンディーネの支配下にある。たとえ四散しても、また再凝固させればいいだけのこと。
倒せども倒せども魚の数が減らないのはそのためだ。
「……ちっ」
周りを旋回する魚の向こう側。そこにウンディーネが居ないものか。皆に背を向けて目を凝らす。無駄な行為だとは分かっている。やはりウンディーネの姿はない。
(何とかしないとな)
自分はまだいけるが、稔と千歳はかなり疲弊しているはず。戦闘に参加出来ないだけでなく、急降下急上昇、そんな動きにさっきから付き合わされているのだ。
とすれば、まずは脱出することが先決――。
「ん?」
一瞬、視界に霞が掛かったような気がした。水は透き通っているし、操のお陰で視界を阻むものはない。
(気のせいか?)
また、視界が霞む。
最初は目の異常かと思ったが、さっきから霞む周期が段々と早くなっている。
異常があるのは目ではない。
周りを囲む、空気のヴェールだ。
「はぁ……はぁ……」
うしろで荒い呼吸音が聞こえた。
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