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「操?」
一目で分かる。
ひどく弱っていると。
額は汗で光り、手で胸のあたりを押さえている。歯を食い縛って倒れんとしている意志が伺えるが、もう事切れそうである。
(無理をさせちまったか……)
この程度の魔法を使ってエーテルを切らすほど操は弱くない。しかし操は、ウンディーネの奇襲に備えて神経を張り巡らせていたことと、攻撃を避けるために素早く正確に動くことを要求されていた。
それが操の精神にプレッシャーを与えていたのだ。
そのことになぜ気付けなかったのか。
優一は自分の軽率さを責めた。
「操、少し休め」
今の自分にはやることがある。自分を責めることは後でも出来よう。
優一は風のヴェールを操の風の外側に展開させた。
「くぅっ……」
操の体がぐらりと揺れる。それと同時に、彼女の魔法がぷつりと切れた。
「危ない!」
「操さん!」
倒れ掛かった操の体を、稔と千歳が左右からしっかりと受けとめる。
「ごめんね……」
荒い呼吸の中、操は弱々しく笑ってみせた。その姿は、堪らなく痛々しい。
(くそっ!)
出来ることなら、自分の手で操を支えてやりたい。しかし、今の優一には出来なかった。
彼の魔法の強さは相手のエーテルに依存するが、どんなに大きな力でも使いこなせなければ意味がない。
確かに優一は四大元素全ての魔法を使える。しかし、操のように一属性の腕を磨きに磨き上げてきた者と同等に扱えるのかと言われれば、答えはノーだ。
使いこなせるには使いこなせる。だが、匠の業には程遠い。
余計なことに神経を使うわけにはいかないのだ。
『あはは!一人倒れたわね!人間って本当ままならないのねぇ』
ウンディーネはエーテルが弱まるのを感じたのではない。明らかに『見て』いるのだ。
お前たちの行動は全て筒抜け。
愉快そうに笑う声からは、そんなメッセージが感じられた。
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