青く透き通る悪魔

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見上げれば水面が遥か遠くで煌めきを放ち、その下には魚の塔が渦を巻いている。透明な水に光が侵入し、その光に魚たちが照らされ、様々な影が浮かび上がる。 敵地とは思えない美しさだった。 「……脱出しましょう」 今まで押し黙っていた千歳が口を開く。 「今のままではジリ貧です。戦力もなく、守ることさえままならない状態では、こちらが負けるのは必至。一旦地上に出て、体勢を建て直しましょう」 こんな状態なのに何も出来ない。千歳の言葉の端からは、悔しさが滲み出ていた。 「俺も賛成だな」 一方稔は、悔しさを隠さない。 「敵に背を向けるってのは俺のポリシーに反するんだが、そんなもんで死ぬくらいならドブに捨ててやるさ。俺に何も出来ないってのが癪に触るがな」 稔はさっきから手の平に拳を何度も叩きつけている。 エーテルは先天の授かりもの。本人の意志とは関係ない。それぞれの属性に長所があり、短所がある。 今の稔には、その短所がいつになく際立っているように思えた。 それがどうしようもないくらい、悔しかった。 「簡単に言ってくれるな」 水面を見上げていた視線を戻し、優一は三人を見た。 「悪いがうまくいく保障はない。俺も出来るだけのことはやるが、失敗する可能性はある。それでも、みんなの命、俺に預けてくれるか?」 いつになく弱気な発言だと自分でも思う。「任せてくれ」の一言が出てこない。 一抹の不安。 たしかに自分は他の人間にはない能力を持っている。だがそれは、決して万能とは言えないのだ。 「あったりめぇよ。俺は『親友』なんて言葉、軽々しく口にしない男だぜ?」 「はい。お願いばかりですみません。恩返しは、いずれまた」 それでも稔は親指を立て、千歳はにっこりと笑ってくれた。 「そうか」 最後に、中心にいる人物を見る。 「操。お前も預けてくれるか?」 「……」 操は優一を真っすぐ見つめ、黙って一回だけ頷いた。 「……そうか」 あなたのことを、信頼してる。 伝わってきた気持ちは、自惚れではないだろう。 それだけで十分だった。 「了解。そんじゃ、我らが地上に帰還するとしますか」 優一は再び水面を見上げる。 その顔は、力強く笑っていた。
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