青く透き通る悪魔

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(すごい……) 操は素直にそう思った。 押しつけられた背中に感じるのは、風の壁の揺れ。ドン、ドン、と断続的に振動している。それに伴って、中の空気も震える。 優一は全方向に向かって空気の波紋を飛ばしているようだ。魚が近づいても粉砕されるのはそのためか。 (一人でも出来るじゃない) 移動しか出来なかった自分とは段違い。 少し、自嘲する。 言い訳をさせてもらうとすれば、状況が違う。前は逃走。今は突破。 でも、もし自分が同じ状況に置かれたとして、果たして優一と同じ動きが出来るだろうか。 (……出来るのに) 優一の風さばきはすごい。もしかしたら自分よりも上手くやっているかもしれない。 しかし彼はどことなく自信がないようだった。それは謙遜ではなく、明らかな卑下。自分を馬鹿にしている節がある。 もしかしたら、自分が「無」であるということを、未だにコンプレックスにしているのかもしれない。 (……) 本人に聞いたら否定するに決まってる。「お前は何を言ってるんだ?」と笑うことだろう。 人と違う。その辛さは、自分には分からない。 昔いじめられたこと。その記憶に、未だ苦しめられているのかもしれない。 だけど誇っていい。 優一は努力して、克服して、力を付けて、ここにいる。 今の優一が、「無」の力だけで成り立っているのではない。彼自身の努力があってこそなのだ。逆境を乗り越えることは棘の道であり、簡単なことではない。 だから誇ってもらいたい。 全ての人に理解してもらう。それは難しいかもしれない。先の事件で「無」に対する風当たりも強くなっている。 だけど、それでも――。 「私は、知っているから」 操は口の中で小さく呟いた。
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