青く透き通る悪魔

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「し、死ぬかと思った……」 稔は地面に大の字に寝転んだ。酸素を補給するように、胸が上下に忙しなく動いている。 「助かりました……」 千歳はほっと息をつき、地面に足を伸ばして座った。 「地面に足がついてるってなぁ、いいことだなぁ」 秋空を見上げて呟く稔。 とても澄み渡った空。紅葉。新鮮な空気。土の感触。 その全てを彼は満喫していた。 「とても久しぶりに感じます」 千歳も地面の感触を確かめるように何度も叩いている。 人間は水の中では暮らせないと、彼女は実感していた。 「……」 優一は今し方脱出してきた水面を、池の淵に立って見下ろしている。 追い打ちがあるかと思ったが、エーテルの活性化はない。どうやらその心配もなさそうだ。 「優一」 隣に操が立つ。 「お疲れさま」 「お互いにな」 二人は揃って水面(みなも)を見つめる。 「ねぇ、優一」 「ん?」 操は水面を見つめながら訊ねた。 「どうしてあそこで突っ込んだの?」 「そうだな」 優一もまた、水面を見つめたまま答える。 「他に方法がなかった。相手は水。飲み込まれたところで攻撃力はないと思った。そんなところだな」 「そう」 しばしの沈黙。 「ま、俺に掛かればちょろいちょろいってところだ」 横目で優一の顔を見る。 頬に一粒の汗が光っていた。 軽口を叩く余裕はあるが、疲れていないわけではないらしい。あるいは軽口を叩くことで疲労している姿を見せまいとしているのかもしれない。 「そう」 そのことには触れず、操は少しほほ笑みながら言った。 「なに笑ってんだよ」 「別に?」 「……わけ分からないなぁ」 優一も別に責めている風ではない。 敵地とは思えぬ穏やかさ。 まるで戦いが終わってしまったような、そんな錯覚さえ覚えてしまう。 「優一。少しは俺の尽力を労え。俺のナビがなかったら死んでたかもしれねぇぞ?」 後ろから稔の声が飛ぶ。 どうやら地上に戻ってきたことで、いつもの調子も戻ったようだ。 「役立たずがよく言うよ。そういうことは敵の一体ぐらい蒸発させてから言え」 優一は軽くため息をついて身を翻し、稔の方に歩いていく。 操はその様子を優しい表情で眺めていた。
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