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「おい!しっかりしろ!」
だき抱えるのと同時に風で包み込む。これで外の冷たさからは遮断され、呼吸も出来るようになった。
「操!!」
優一の呼び掛けにも、操は答えない。
黒い長髪も学校の制服も水でぐっしょりと濡れている。力なく垂れた手足の先からは水滴が落ちる。
顔面は漂白剤に浸けられたかのように蒼白。目も開かない。
いつもの元気な声も、聞かせてくれない。
「嘘だろ……」
操の重さを感じる。
こんなはずない。
こんなはずがない。
こんなに華奢で可憐な体が、こんなに重いはずがない。
もっともっと、羽のように軽いはずなのに、どうしてこんなにずっしりと両腕にのしかかるのか。
「返事をしてくれ……!」
呼吸は皆無。
脈拍は……確認したくない。
『そんなことしてる暇があるの?』
哀れみでも同情でもない。人を弄び、見下すようなウンディーネの声が響く。
『今は見逃してあげるから、早く地上に戻った方がいいんじゃないの?ま、もうとっくに死んじゃってるけどね!』
どこまでも、どこまでも愉快そうな声。
「てめぇ……」
優一の目に憎悪の炎が灯った。
「てめぇだけは許さねぇ。なぶり殺しだ。手足の指の一本一本から砕いてやる。殺してくれって懇願するまで痛め付けてやる。絶対にだ。俺はお前を……」
いつもの優一なら絶対に使わない言葉。
全速力で上昇を始めた優一は、水中のどこにいるとも分からないウンディーネに向かって、重く静かに言い放った。
「絶対に許さない」
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