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「優一!」
「塚越君!」
稔と千歳は水中から飛び出してきた優一の姿を確認すると、少しだけ顔を輝かせた。しかし、優一の腕に抱えられている操の姿を見ると、一瞬にして表情を凍り付かせた。
「桐生さん!!」
「そんな……!」
二人を余所に、優一は操を地面に横たえた。壊れ物を扱うように、慎重に、慎重に。
「桐生さんは!?」
稔が詰め寄る。
「見ての通りだ。かなりヤバい状態にある」
優一は操の首に指をあて、続いて腹に手を置いた。
「……」
それから手をゆっくりと離し、力なく首を振った。
「操さん……!」
今にも泣きだしそうだった千歳は、震える唇をぎゅっと噛み締め、操の手を取った。
「魔法医療をやってみます。効くかどうかは分からないけど、何もしないよりはましです」
エーテルは人の根幹を支えるエネルギー。持ち主が尽きる時、エーテルもその仕事を終える。つまり、魔法医療で死者を蘇らせることは出来ない。
操がどれくらい前に心肺停止状態に陥ったのかは分からない。しかし、操のエーテルはまだ老いてはいない。
可能性は十分ある。
(必ず助けますから)
親友でありライバルである少女に誓いを立て、千歳は意識を集中させる。
「稔」
操の顔をじっと見つめたまま、背中越しに指示を飛ばす。
「操の体は冷えきっている。山の中から枯れ枝やなんかを集めてきて、火を灯してくれないか?」
声はいたって静か。
しかし、希望はまだ見失っていない。
長い付き合いだから分かる、優一の気持ち。
「分かった!」
だったらその気持ちに答えるまで。
稔は森に向かって走り始めた。
「頼んだぞ」
駆けていく音を背中で聞きながら、優一も行動を起こした。
(見よう見真似だ。うまくいくかは分からない)
いつか、どこかで得た知識。今はその記憶だけが頼り。
(でも、やらないよりはまし)
操の額を右手で抑え、左手を顎に当て、頭をそらす。
これで気道は確保されたはず。
「操」
手に伝わってくるのは、氷のような冷たさだけ。彫刻のように固まってしまった彼女は、優一の呼び掛けにも答えない。
「今、助ける」
優一は大きく息を吸い込み、その空気を操の口に一気に吹き込んだ。
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