青く透き通る悪魔

37/59

90797人が本棚に入れています
本棚に追加
/396ページ
「優一!」 「塚越君!」 稔と千歳は水中から飛び出してきた優一の姿を確認すると、少しだけ顔を輝かせた。しかし、優一の腕に抱えられている操の姿を見ると、一瞬にして表情を凍り付かせた。 「桐生さん!!」 「そんな……!」 二人を余所に、優一は操を地面に横たえた。壊れ物を扱うように、慎重に、慎重に。 「桐生さんは!?」 稔が詰め寄る。 「見ての通りだ。かなりヤバい状態にある」 優一は操の首に指をあて、続いて腹に手を置いた。 「……」 それから手をゆっくりと離し、力なく首を振った。 「操さん……!」 今にも泣きだしそうだった千歳は、震える唇をぎゅっと噛み締め、操の手を取った。 「魔法医療をやってみます。効くかどうかは分からないけど、何もしないよりはましです」 エーテルは人の根幹を支えるエネルギー。持ち主が尽きる時、エーテルもその仕事を終える。つまり、魔法医療で死者を蘇らせることは出来ない。 操がどれくらい前に心肺停止状態に陥ったのかは分からない。しかし、操のエーテルはまだ老いてはいない。 可能性は十分ある。 (必ず助けますから) 親友でありライバルである少女に誓いを立て、千歳は意識を集中させる。 「稔」 操の顔をじっと見つめたまま、背中越しに指示を飛ばす。 「操の体は冷えきっている。山の中から枯れ枝やなんかを集めてきて、火を灯してくれないか?」 声はいたって静か。 しかし、希望はまだ見失っていない。 長い付き合いだから分かる、優一の気持ち。 「分かった!」 だったらその気持ちに答えるまで。 稔は森に向かって走り始めた。 「頼んだぞ」 駆けていく音を背中で聞きながら、優一も行動を起こした。 (見よう見真似だ。うまくいくかは分からない) いつか、どこかで得た知識。今はその記憶だけが頼り。 (でも、やらないよりはまし) 操の額を右手で抑え、左手を顎に当て、頭をそらす。 これで気道は確保されたはず。 「操」 手に伝わってくるのは、氷のような冷たさだけ。彫刻のように固まってしまった彼女は、優一の呼び掛けにも答えない。 「今、助ける」 優一は大きく息を吸い込み、その空気を操の口に一気に吹き込んだ。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90797人が本棚に入れています
本棚に追加