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自分はなんて嫌な女なのだろう。
死にかけの操に対して、千歳は一種の羨ましさを覚えていた。
「しっかりしろ……」
優一は心臓マッサージをしている。押す場所は目見当。本来曲げてはならない肘も曲がってしまっている。
ただ力任せに圧迫している。
「息をしろ!」
その後に、人工呼吸。
操の胸が上下に動く。肺に空気が入ってる証拠だ。
「目を覚ませ!」
彼がこんなに必死になっている姿は、出会ってから初めて見る。無論、命の危機に瀕している友人を救うためだからだろう。しかし、それだけではない気がした。
(……絆)
二人の間に感じるそれ。
信頼を超えた深い繋がり。
他の人間が立ち入ることの出来ないような、固い繋がり。
(……そっか)
こんな時にこんなことを考えてしまう自分には、到底届くことの出来ない領域だ。
彼は彼女を助けるために、命を惜しまない。体裁も気にしない。彼女も多分、同じことをするだろう。
自分が同じ立場だったら、果たして同じことを出来るだろうか。彼が水中に引きずり込まれた時、自分は躊躇わずに飛び込むことが出来るだろうか。
(……!)
エーテルの活性化を感じる。それは命の息吹。蘇生の合図。
「くそ!やっぱり駄目なのか!?」
優一は今にも泣き出しそうな顔で操の両頬に手を添える。
「頼む……。死ぬなっ!」
「……大丈夫」
掴んだ手から感じるのは、猛烈なエーテルの循環。体中を駆け巡り、彼女の再起を促している。
「もう、大丈夫です」
これだけのエーテルの動きが感じられれば、もう自分が手を加える必要はない。
あとは彼女自身のエーテルが何とかしてくれる。
「だから心配しないで下さい」
千歳は優しく笑いかけた。
そして、自分の気持ちに踏ん切りをつけた。
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