青く透き通る悪魔

38/59

90797人が本棚に入れています
本棚に追加
/396ページ
自分はなんて嫌な女なのだろう。 死にかけの操に対して、千歳は一種の羨ましさを覚えていた。 「しっかりしろ……」 優一は心臓マッサージをしている。押す場所は目見当。本来曲げてはならない肘も曲がってしまっている。 ただ力任せに圧迫している。 「息をしろ!」 その後に、人工呼吸。 操の胸が上下に動く。肺に空気が入ってる証拠だ。 「目を覚ませ!」 彼がこんなに必死になっている姿は、出会ってから初めて見る。無論、命の危機に瀕している友人を救うためだからだろう。しかし、それだけではない気がした。 (……絆) 二人の間に感じるそれ。 信頼を超えた深い繋がり。 他の人間が立ち入ることの出来ないような、固い繋がり。 (……そっか) こんな時にこんなことを考えてしまう自分には、到底届くことの出来ない領域だ。 彼は彼女を助けるために、命を惜しまない。体裁も気にしない。彼女も多分、同じことをするだろう。 自分が同じ立場だったら、果たして同じことを出来るだろうか。彼が水中に引きずり込まれた時、自分は躊躇わずに飛び込むことが出来るだろうか。 (……!) エーテルの活性化を感じる。それは命の息吹。蘇生の合図。 「くそ!やっぱり駄目なのか!?」 優一は今にも泣き出しそうな顔で操の両頬に手を添える。 「頼む……。死ぬなっ!」 「……大丈夫」 掴んだ手から感じるのは、猛烈なエーテルの循環。体中を駆け巡り、彼女の再起を促している。 「もう、大丈夫です」 これだけのエーテルの動きが感じられれば、もう自分が手を加える必要はない。 あとは彼女自身のエーテルが何とかしてくれる。 「だから心配しないで下さい」 千歳は優しく笑いかけた。 そして、自分の気持ちに踏ん切りをつけた。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90797人が本棚に入れています
本棚に追加