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「げほっ!げほっ!」
操が水を吐き出す。
「操!!」
優一は操の顔を動かし、自分の方に向かせた。
「俺だ。分かるか?」
「ううう……」
眉間に皺を寄せて開かれた目。最初は虚ろだったが、除々に除々に光を取り戻し、焦点が合っていく。
「ゆう……いち……?」
今にも消え入りそうな声。しかし、それだけで十分だった。
「まったく。心配させるなよ」
ほっと安堵の息が漏れた。
「……」
操はただ、黙って優一の顔を見つめている。とても訝しげな表情で。
「なんだよ……あっ」
沈黙に耐えかねた優一が口を開く。それと同時に、あることに気が付いた。
自分の手が操の両頬に添えられている。
もしかして、これが原因なのか?
「わ、悪い」
優一は慌てて両の手を引っ込めた。
「べ、別に下心があったわけじゃないぞ。これはそう……不可抗力だ。お前を起こそうと無意識のうちに――」
「なにをぶつぶつと言ってるのよ?」
こちらに背を向けて狼狽する優一の姿。それが可笑しいのか、操の声にはどこか楽しそうなところがある。
どうやら調子を取り戻したようだ。
「大丈夫ですか?」
上体を起こそうとした操の背中に千歳が手を回す。
「まだ本調子じゃないんだから、無理は禁物です」
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