青く透き通る悪魔

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優一が帰ってきたのはそれからしばらく経った後だった。休憩というには少々長すぎる時間。ウンディーネの強襲だけでなく、皆が彼の安否を心配し始めた頃に、何食わぬ顔で帰還を果たしたのだ。 「何をしていたの?」 操が訊くが、彼は何も答えなかった。 考えていることがさっぱり分からない。 優一は皆の間を通り抜けると、湖面に近づいて覗き込むように顔を落とした。 「おい優一。あんまり近づくと危ねぇぞ」 「大丈夫だよ。ウンディーネは攻撃をしてこない」 湖面に背を向ける。 「あいつは俺たちがまた飛び込んでくるのを待っている。自分のフィールドに引きずり込んで、絶望の淵でトドメを刺そうとしている。つくづく腐った野郎だよ」 平静を装っているが、言葉の節々から侮蔑に似た怒りの音が聞こえてくる。もう辛抱出来ない。まるでそう言っているようだった。 「だから、ちょっと目にもの見せてくる。これ以上馬鹿にされてたまるか」 怒気が顕現した。目付きも鋭いものに変わる。思わずわなないてしまいそうな、そんな声と眼光。これほどまでに激情にかられた優一の姿を、今まで見たことがなかった。 「む、無茶です!」 それでも。 千歳が声を荒げる。 「塚越君も見たでしょう?ウンディーネの力は強力です。ここは一旦退いて体勢を立て直し、対抗策を十分練ってから――」 「悪いな。立花さん」 いくらか角の取れた声で、優一は千歳の言葉を遮った。 「大切な仲間が殺されかけた。その宿敵が目の前に居る。たしかに不利かもしれないけど、それでもおずおずと引き下がれるほど、俺は物分かりが良くはない」 一際強い風が吹いた。 それは木々をざわつかせ、湖畔に佇む四人を叩く。
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