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「優一……」
操が心配そうな声を上げる。
それは優一の身を案じてのこと。一度決めたらそれを撤回しないことはよく分かっている。出来れば自分も力になりたいが、体がそれを受け付けないのだ。
体力の消耗。もちろんそれもある。しかし一番の原因は、ウンディーネに引きずり込まれたこと。
足のつかない恐怖。水面から離れていく絶望感。息が出来ない苦しみ。呼吸が止まった時の――感覚。
トラウマになりつつあった。
しばらくは水中に潜ることさえ出来ないというほどに。
「大丈夫。心配するな」
そんな心中を察してか、優一は険の取れた表情と声色になった。心配するなという一言が、どこまでも頼もしく聞こえる。
「お前と立花さんには地上で待機していてもらう。もしもの時は助けを呼んできてほしい。しかし、だ」
そこで優一は、稔に顔を向けた。
「お前にはちょっと付き合ってもらうぞ?」
指名された稔は待っていましたと言わんばかりにニヤリと笑った。
「真打ち登場ってわけだな?やっと俺様の出番が来たか」
そのまま優一の隣に歩く。
「俺もさっきからムカっ腹が立っているからよ、ウンディーネに一発ぶち込まないと収まりそうにないんだわ。ま、俺がどの程度役に立つかは知らんがな」
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