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稔は拳を手の平に打ち付けた。もはや癖になりつつあるこの行為は、彼が力を持て余しているということの証拠。戦いたくてうずうずしているのだ。
普段はお調子者だが、その奥に秘めた力は並大抵のものではない。
「お前の謙遜は気持ち悪いだけだな。いつもの自信過剰なくらいがちょうどいい」
「言ってろ。俺はいつだって謙虚な紳士でいたはずだが?」
互いに軽口を叩き合う行為は、開戦に向けての意志確認。
全力で敵を粉砕する。
その意志確認が出来なければ、たとえ親友であっても背中を預けることは出来ない。
「……よし。いくか」
再び優一の口調が静かなものに変わる。
「了解。道案内よろしく」
稔の表情も凛としたものに変わった。
「そんじゃお二人さん。留守番よろしく頼む」
「立花さん、操の面倒を見てやってくれ」
二人の顔に緩みの色はない。ここから先は、死の匂いが充満する領域。生半可な覚悟と姿勢で臨むわけにはいかないのだ。
「……頑張ってね」
千歳はその姿に圧倒されて声が出ないらしかった。操がただ一言、手向けの言葉を送った。
直後、少年たちと少女らの間に見えない壁が形成される。空気で出来たそれは少年たちを包み込むような円形に変形し、やがて二人を透き通った水の底へと誘った。
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