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「色々考えてみたんだが、結局この水を何とかしないと埒が開かないっていう結論に至った。だからお前を連れてきたんだけど?」
優一は糞真面目な顔で言っている。冗談でも戯言でもなく、どうやら大真面目にそんなことを考えているらしい。
「お前なぁ」
稔は頭をバリバリと掻いた。
「よく考えろ。たしかにお前はエーテルを吸収出来るし、俺も自分の魔法に自信はある。だがな、俺たち二人だけの魔法でこれだけの量の水を蒸発させられると思うか?そいつは自信過剰ってもんだぜ」
稔の発言は客観的事実。謙遜でも何でもない。
自分の実力見誤って泣きを見るのは、結局自分なのだ。
「それは『一撃で』ってのが前提の考えだ。『何回か』って考えなら、不可能ではないだろう?」
しかし、優一はそんな事実などお構いなしに意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「ここの水はウンディーネのエーテルで満たされてるから、俺は一発でエーテルを使いきっても瞬間チャージが可能だ。でもこの風を保つぐらいのエーテルは残しておきたいから、足りない威力はお前が埋めてくれればいい」
一旦言葉を切って、優一は肩をすくめた。
「別に全部を蒸発させようなんてことは考えてないさ。ウンディーネをびびらせるぐらいでいい。仮にも自分のエーテル。好き勝手使われて消費されるなんてたまったもんじゃない。必ず姿を現すはずだ。あとはそれをとっ捕まえて、地上に引きずりだしてやりゃあいい」
何とも簡単に言ってくれる。よしんばうまくいったとして、地上に引きずりだす時は一体どうするのか。
しかし他に妙案が浮かんだかと言えば、何かヒントになるようなことさえ浮かんでこない。
結局、優一の案に乗るしかないのだ。
「どっからそんな自信が湧いてくるのかね」
降参という風に稔はため息をついた。
「まぁ、虎穴に入らずんば虎児を得ずって言うしな。リスクを負うのは仕方ないか」
「よくそんな難しい言葉を知ってるな。昨日クイズ番組かなんかで出てきたのか?」
「言ってろ。俺は意外とインテリさんなんだぜ?」
たしかに代案が浮かばなかったこともある。
しかし優一の自信に満ち足りた、どこか挑発的でさえある表情を見ていると、何だか成功するような、そんな気かしたのだ。
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