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驚愕していたのは地上の二人だけではなかった。
(ば、馬鹿な!?)
水の覇者たるウンディーネはひどく狼狽している。幸い自分の体を溶かしたお陰で姿を見せずに済んでいるが、動揺は隠しきれない。
(ありえない!)
「無」というものを甘く見ていたかもしれない。
エーテルを宿していないことは知っていたし、魔法を吸収することも知っていた。だから「無」を満たしさえすれば防御は不可能。敵の守りを封じてしまえばこちらの勝利は確定。そう算段していた。
しかし、一つの誤算があった。
(……奴は)
エーテルを使いきることを躊躇わない。エーテルは人間の体を支えるエネルギーであり、それが無くなれば体に支障をきたす。だから普通の人間はエーテルを使いきることをしようとはしない。
だが、最初からエーテルを持っていない人間はどうだ。人間の構造はよく分からないが、「無」は持つべきものを持たない奇形。突然変異。
奇形であるが故に、普通は躊躇うことを躊躇わない。恐れない。だから、たとえ精霊を前にしても退かない。人間の手に余る力を利用する。
恐れがない。
それが奴の原動力。
(うぐっ!!)
再びの爆発。
水に翻弄される体。
吸い取られるエーテル。
消費される自分の力。
エーテルは人間の体を支えるエネルギーである。それと同時に、精霊の体そのもの。
好き勝手に消費されてはたまったものではない。
(おのれ……)
奴らは恐らく、こちらが姿を現わすのを待っている。水にちりばめたエーテルを回収し、姿を現わすその時を。
そうしなければ、奴らはここの水が尽きるまで爆発を起こす。エーテルを際限なく使う。
水の消滅と力の消滅。どちらも致命的。
イニシアティブを完全に握られている今、もはや迷っている余裕はなかった。
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