90797人が本棚に入れています
本棚に追加
/396ページ
「精霊の力ってのはやっぱりすごいな」
稔は感嘆の声を洩らした。
池の水は半分――いや、それ以上失われている。突入した時は見上げるほどだった水面が、今では頭上すぐそこまで来ているのだ。
空がどこか遠く感じるのは、今までは意識していなかった池の外壁が、切り立った崖のように視界に入ってくるからか。
たった二発の爆発。
しかも優一は自分たちの呼吸を確保するために、いくらか力をセーブしている。
力をセーブしていて、この有り様。
純粋なるエーテルの力は、どこか恐怖を覚えるほどに強力だった。
「さて、どう出る?」
見えない何かに問うように優一が呟く。
水は不気味なまでに穏やか。耳障りな声もなく、目障りな魚の姿もない。静寂だけが支配している。まるですべてに決着がついてしまったような雰囲気だ。
しかし、優一は感じていた。未だ水中を漂うエーテルの存在を。それはウンディーネがまだ生きているという証拠。
このままでは、終わらない。
「……お?」
やはりと言うべきか。
急にエーテルが集束を始めた。水中に薄く広がっていたエーテルが、ある一点を目指して移動している。
こちらの存在を恐れているのか、向かう先はここから一番離れた場所。
相手はこちらを恐れている。とどめを刺すなら、今が好機。
「稔、ちょっと移動するぞ」
友が答えるより早く、優一は風に移動を命じた。
最初のコメントを投稿しよう!