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水がざわめく。
動くエーテルが流れを作っているかのように。
水中を満たすエーテルが海へと流れ込む。川のように、ある一点に注いでいる。
それは不可視の流水。
流れを肌で感じながら、優一は終着点に急ぐ。
「稔、大丈夫か?」
隣で尻餅をついている友人に声を掛ける。
「そういうことは発進する前に言ってくれ……」
恨めしげな稔の声。
彼は風の急発進に対処することが出来ず、派手に尻餅をついたのである。
「しかしまぁ、立っているよりは楽か。俺のことは気にせずやってくれ」
手加減はするな。そう言ってくれているような気がした。
「そうか」
だから優一はスピードを緩めない。流れを追い、その先にあるものを目指す。
エーテルの終着点は湖底の一角。既に形成は始まっていた。膨大な量のエーテルが集まり、流れ着く傍から蓄積していく。
爪先から始まり、腿、大腿部、腰、胸元と順番に出来ていく様は、まるでゲームのワンシーンを見ているような光景だった。
(初手で決める)
優一の中にはある思惑があった。
それは形成の瞬間の隙を突く一撃。無論、一撃で仕留めるのは無理だろうが、それでも相手の抵抗は無効化出来るはず。
「ちょっとスピードを上げるぞ」
そう言って、優一は急降下を始めた。
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