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「よし。先手は取れたな」
優一は足下の精霊を見下ろした。
『この……下等生物がぁ!!』
水の精霊は牙を向く猛獣と化していた。
仰向けに倒されただけではない。そのまま蹂躙されている。しかも相手は人間。耐え難い苦痛だった。
空気の壁を打ち破らんと爪を立てるが、そう簡単には破れない。脱出しようともがいてみるが、多大な圧力によって動けない。
出来る抵抗といえば、壁の向こうに居る敵を憎悪の念を持って睨み付けるぐらい。
『この……!』
「動くな」
エーテルの展開を察知した優一は、すぐさまウンディーネに掛けている圧力を増幅させた。
風は主の命に従い、ウンディーネにのし掛かる。
『うあっ!』
苦痛に顔を歪め、ウンディーネの動きが止まる。
「抵抗も反撃も無駄だ。大人しくしていれば、少しは長く生きられる」
優一の目はひどく冷めきっていた。哀れみもない。優越感もない。
しかし、口調から出たのは明らかな死刑の宣告。「少しは長く生きられる」が、決して生かしてはおかない。
彼はそう言っているのだ。
『人間ごときが私に口答えなど!!』
ウンディーネはただひたすらに口悪く喚き散らす。先刻、優一らを馬鹿にしていた輩と同一とは思えない。
化けの皮が剥がれたとでも言うべきか。彼女の本性はこちらなのかもしれない。
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